## 原油価格高騰と連動した円安=ホルムズ海峡封鎖リスクへ反応か6月13日のイスラエルによるイラン空爆から広がり始めた米ドル高・円安は、米国の軍事介入を受けて、6月23日には148円に達した。この動きは、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からは大きくかい離したものだった(図表1参照)。この金利差で説明できない米ドル高・円安は、「有事の米ドル買い」で説明されることが一般的だったのではないか。【図表1】米ドル/円と日米2年債利回り差(2025年4月~)出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成それにしても、この場合の「有事」とは具体的に何を指したのか。この局面での米ドル高・円安は、原油価格の高騰と一定の相関関係があった(図表2参照)。では、なぜ原油価格は高騰したのか。考えられる理由の1つは、ホルムズ海峡封鎖により原油供給が遮断されるリスクに対して最も有利な立場になるのは、シェール原油の出現で今や世界一の産油国となった米国だということ、そういう意味では、明らかな米ドル買い材料だろう。もちろん原油輸入依存度の高い日本の円売り材料でもある。【図表2】米ドル/円とWTI(2025年5月~)出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成## 世界一の産油国・米国が生産調整役に=中東有事の原油高に変化も米国の軍事介入を受けて、いよいよイランがホルムズ海峡封鎖に動く可能性が注目された。しかし、どうやらそれは行使されないとの見方が強まる中で原油価格は急落し、米ドル/円もそれに連れて米ドル安・円高になったようにも見える。以上を踏まえると、今回「有事の米ドル買い」とされた「有事」とは、ホルムズ海峡封鎖に伴う原油供給遮断リスクが大きかったのではないか。今回もう1つ注目されたのは、原油価格高騰を阻止、是正するためにトランプ米大統領がシェール原油増産を強く訴えたことだ。世界一の産油国となった米国は、原油の需給を調整し価格安定化に影響力を発揮するスウィング・プロデューサーの役割も担い始めていると言えそうだ。これは、中東情勢の緊張でも原油価格高騰が起こりにくくなり、原油高を通じた米ドル高・円安の可能性が低下しているという意味になるだろう。## 148円で円安が止まった理由=円売りポジション損益分岐点との関係日米金利差からかい離して米ドル高・円安が広がった背景としては、投機筋の記録的に大幅な米ドル売り・円買いポジションの手仕舞い(米ドル買い・円売り)の影響も注目された。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは一時買い越し(米ドル売り越し)が17万枚以上と空前規模に達した(図表3参照)。このような異常なほどの円「買われ過ぎ」の状況が、原油供給不安の中で修正を急ぎ、それに伴う円売りが金利差からかい離した円安をもたらした可能性は考えられる。【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2005年~)出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成この投機筋の米ドル買い・円売りポジションの損益分岐点は148円台の可能性があった。代表的な投機筋のヘッジファンドは、過去半年平均の120日MA(移動平均線)が損益分岐点の目安と見られているためだが、それは足下で148円台前半だった(図表4参照)。【図表4】米ドル/円と120日MA(2022年1月~)出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成以上のように見ると、今回の米ドル高・円安は、投機筋の米ドル売り・円買いポジションの損益分岐点割れ寸前で反転したとも言えそうだ。もしも、さらに米ドル高・円安が進み、円買いポジションの損失拡大懸念が広がったら、ポジションの手仕舞い(米ドル買い・円売り)は一段と拡大した可能性もあったのではないか。その意味では、損益分岐点割れに至らなかったことが、米ドル高・円安が148円で一巡し、その後急反転となった大きな要因だったということではないか。
【為替】148円から円安が円高に反転した理由 | 吉田恒の為替デイリー | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
原油価格高騰と連動した円安=ホルムズ海峡封鎖リスクへ反応か
6月13日のイスラエルによるイラン空爆から広がり始めた米ドル高・円安は、米国の軍事介入を受けて、6月23日には148円に達した。この動きは、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からは大きくかい離したものだった(図表1参照)。この金利差で説明できない米ドル高・円安は、「有事の米ドル買い」で説明されることが一般的だったのではないか。
【図表1】米ドル/円と日米2年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
それにしても、この場合の「有事」とは具体的に何を指したのか。この局面での米ドル高・円安は、原油価格の高騰と一定の相関関係があった(図表2参照)。では、なぜ原油価格は高騰したのか。考えられる理由の1つは、ホルムズ海峡封鎖により原油供給が遮断されるリスクに対して最も有利な立場になるのは、シェール原油の出現で今や世界一の産油国となった米国だということ、そういう意味では、明らかな米ドル買い材料だろう。もちろん原油輸入依存度の高い日本の円売り材料でもある。
【図表2】米ドル/円とWTI(2025年5月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
世界一の産油国・米国が生産調整役に=中東有事の原油高に変化も
米国の軍事介入を受けて、いよいよイランがホルムズ海峡封鎖に動く可能性が注目された。しかし、どうやらそれは行使されないとの見方が強まる中で原油価格は急落し、米ドル/円もそれに連れて米ドル安・円高になったようにも見える。以上を踏まえると、今回「有事の米ドル買い」とされた「有事」とは、ホルムズ海峡封鎖に伴う原油供給遮断リスクが大きかったのではないか。
今回もう1つ注目されたのは、原油価格高騰を阻止、是正するためにトランプ米大統領がシェール原油増産を強く訴えたことだ。世界一の産油国となった米国は、原油の需給を調整し価格安定化に影響力を発揮するスウィング・プロデューサーの役割も担い始めていると言えそうだ。これは、中東情勢の緊張でも原油価格高騰が起こりにくくなり、原油高を通じた米ドル高・円安の可能性が低下しているという意味になるだろう。
148円で円安が止まった理由=円売りポジション損益分岐点との関係
日米金利差からかい離して米ドル高・円安が広がった背景としては、投機筋の記録的に大幅な米ドル売り・円買いポジションの手仕舞い(米ドル買い・円売り)の影響も注目された。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは一時買い越し(米ドル売り越し)が17万枚以上と空前規模に達した(図表3参照)。このような異常なほどの円「買われ過ぎ」の状況が、原油供給不安の中で修正を急ぎ、それに伴う円売りが金利差からかい離した円安をもたらした可能性は考えられる。
【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2005年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
この投機筋の米ドル買い・円売りポジションの損益分岐点は148円台の可能性があった。代表的な投機筋のヘッジファンドは、過去半年平均の120日MA(移動平均線)が損益分岐点の目安と見られているためだが、それは足下で148円台前半だった(図表4参照)。
【図表4】米ドル/円と120日MA(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
以上のように見ると、今回の米ドル高・円安は、投機筋の米ドル売り・円買いポジションの損益分岐点割れ寸前で反転したとも言えそうだ。もしも、さらに米ドル高・円安が進み、円買いポジションの損失拡大懸念が広がったら、ポジションの手仕舞い(米ドル買い・円売り)は一段と拡大した可能性もあったのではないか。その意味では、損益分岐点割れに至らなかったことが、米ドル高・円安が148円で一巡し、その後急反転となった大きな要因だったということではないか。