償還までの期間が長い日本の超長期国債の価格に異変が起こっています。価格が大きく下落し、金利が上昇しているのです。## 発行額の見直しに追い込まれる財務省例えば、40年物国債は利回りが2025年5月下旬に3.675%まで上昇(価格は下落)し、発行開始以来最高金利となりました。価格で見れば半分近くまで下落しています。30年物も3.185%と3%を大きく超えて過去最高金利です。これを受けて財務省は国債の発行計画を見直し、償還までの期間が10年を超える20、30、40年物の超長期国債について2025年7月から1回あたりの起債額をそれぞれ1000億円ずつ減らす方針にしたようです。発行計画の見直しは異例の対応で、国債を取り巻く状況の深刻さがわかります。超長期国債に限らず、日本の国債に関しては、次のような「3つの問題」が存在しています。### 【問題1】国債に対する需要の減退長期国債の金利は国債マーケットの需要と供給によって決まります。需要サイドを見ると、2013年からの黒田前日銀総裁による異次元緩和政策で、日銀は国債を市場から買い入れ、イールドカーブ・コントロールを行っていました。日銀の購入によって長期金利が下がり、価格が上昇していったのです。国債の最大の買い手として残高の過半を占めていた日銀ですが、金融政策の正常化に向けて現在は購入金額の減額を進めています。また生命保険会社も買い入れに慎重な姿勢を見せ始め、超長期債のメインプレイヤーの購入が減っていくことになりました。金利の先行き上昇を予想する場合、将来の債券価格が下落するため投資家は慌てて買う必要はなくなります。国債の需要減退がイールドカーブを全体に押し上げることになります。### 【問題2】国債の供給の増加一方で、供給サイドでは参議院選挙に向けた減税や給付金等の検討を与野党各党が行っており、財政赤字悪化懸念が広がっています。また、財政政策によって歳出が増えるだけではなく、社会保障の支出額も国民の高齢化とともに年々膨らんでいます。財政拡張型の政策が続き、日本の財政状況はさらに悪化することが考えられます。国債の発行が増えれば、供給の増加により需給関係は悪化します。### 【問題3】国債評価損の発生と調達コストの上昇需給関係の悪化から国債が売られれば、価格は下落し金利が上昇することになります。これは今後発行される国債の金利が上昇するだけではなく、既に発行され主に金融機関が保有している資産にもマイナスの影響を与えます。評価価格が下がることによって、保有国債に評価損が生じることになります。日銀だけではなく、国内の金融機関の中には預金を国債で運用しているところが珍しくありません。評価損の拡大は保有している金融機関の信用力の低下に繋がります。財務体質の弱い金融機関であれば、預金流出のリスクも出てきます。また、日銀の信用力低下は円の信任低下にも繋がりかねません。金利の上昇は国債のこれからの調達コストの上昇にも繋がり、財政悪化をさらに加速させ、より資金調達を困難にしていくことが予想されます。## 資金調達に支障をきたし始めた日本国債超長期ゾーンの国債の需給関係の悪化に対応して、財務省は国債の発行を短期化してでも資金調達を続けなければなりません。これは裏を返せば投資家から長期での資金が調達できなくなってきたことを意味します。資金調達が短期化し調達金利が上昇していくのは、民間企業であれば極めて憂慮すべき状況です。短期で調達を繰り返すのは、財務状態を不安定化することになります。これは政府が発行する国債だからといっても例外ではありません。## 国債が金融マーケットの波乱要因に株式や為替に比べ一般の人たちからの注目度は必ずしも高くない債券市場ですが、このような不穏な動きが知られるようになれば、さらに国債マーケットに対するマイナス要因となってきます。今後の長期国債の入札に関しては、マーケットの関心がさらに高まっていくことになると思います。近い将来、国債入札が不調に終わることをきっかけに、債券マーケットに混乱が起こり、日本の財政リスクがクローズアップされるタイミングが来るかもしれません。悪い円金利の上昇は、通貨安を招き株価にもマイナス、そしてインフレにつながります。遠くない将来の最悪のシナリオに備えて、早めの対応を行っておくとよいでしょう。
日本国債に関わる「3つの問題」 | 内藤忍の「お金から自由になる方法」 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
償還までの期間が長い日本の超長期国債の価格に異変が起こっています。価格が大きく下落し、金利が上昇しているのです。
発行額の見直しに追い込まれる財務省
例えば、40年物国債は利回りが2025年5月下旬に3.675%まで上昇(価格は下落)し、発行開始以来最高金利となりました。価格で見れば半分近くまで下落しています。30年物も3.185%と3%を大きく超えて過去最高金利です。
これを受けて財務省は国債の発行計画を見直し、償還までの期間が10年を超える20、30、40年物の超長期国債について2025年7月から1回あたりの起債額をそれぞれ1000億円ずつ減らす方針にしたようです。発行計画の見直しは異例の対応で、国債を取り巻く状況の深刻さがわかります。
超長期国債に限らず、日本の国債に関しては、次のような「3つの問題」が存在しています。
【問題1】国債に対する需要の減退
長期国債の金利は国債マーケットの需要と供給によって決まります。
需要サイドを見ると、2013年からの黒田前日銀総裁による異次元緩和政策で、日銀は国債を市場から買い入れ、イールドカーブ・コントロールを行っていました。日銀の購入によって長期金利が下がり、価格が上昇していったのです。
国債の最大の買い手として残高の過半を占めていた日銀ですが、金融政策の正常化に向けて現在は購入金額の減額を進めています。
また生命保険会社も買い入れに慎重な姿勢を見せ始め、超長期債のメインプレイヤーの購入が減っていくことになりました。
金利の先行き上昇を予想する場合、将来の債券価格が下落するため投資家は慌てて買う必要はなくなります。国債の需要減退がイールドカーブを全体に押し上げることになります。
【問題2】国債の供給の増加
一方で、供給サイドでは参議院選挙に向けた減税や給付金等の検討を与野党各党が行っており、財政赤字悪化懸念が広がっています。
また、財政政策によって歳出が増えるだけではなく、社会保障の支出額も国民の高齢化とともに年々膨らんでいます。
財政拡張型の政策が続き、日本の財政状況はさらに悪化することが考えられます。
国債の発行が増えれば、供給の増加により需給関係は悪化します。
【問題3】国債評価損の発生と調達コストの上昇
需給関係の悪化から国債が売られれば、価格は下落し金利が上昇することになります。
これは今後発行される国債の金利が上昇するだけではなく、既に発行され主に金融機関が保有している資産にもマイナスの影響を与えます。
評価価格が下がることによって、保有国債に評価損が生じることになります。日銀だけではなく、国内の金融機関の中には預金を国債で運用しているところが珍しくありません。
評価損の拡大は保有している金融機関の信用力の低下に繋がります。財務体質の弱い金融機関であれば、預金流出のリスクも出てきます。
また、日銀の信用力低下は円の信任低下にも繋がりかねません。
金利の上昇は国債のこれからの調達コストの上昇にも繋がり、財政悪化をさらに加速させ、より資金調達を困難にしていくことが予想されます。
資金調達に支障をきたし始めた日本国債
超長期ゾーンの国債の需給関係の悪化に対応して、財務省は国債の発行を短期化してでも資金調達を続けなければなりません。
これは裏を返せば投資家から長期での資金が調達できなくなってきたことを意味します。
資金調達が短期化し調達金利が上昇していくのは、民間企業であれば極めて憂慮すべき状況です。短期で調達を繰り返すのは、財務状態を不安定化することになります。
これは政府が発行する国債だからといっても例外ではありません。
国債が金融マーケットの波乱要因に
株式や為替に比べ一般の人たちからの注目度は必ずしも高くない債券市場ですが、このような不穏な動きが知られるようになれば、さらに国債マーケットに対するマイナス要因となってきます。
今後の長期国債の入札に関しては、マーケットの関心がさらに高まっていくことになると思います。
近い将来、国債入札が不調に終わることをきっかけに、債券マーケットに混乱が起こり、日本の財政リスクがクローズアップされるタイミングが来るかもしれません。
悪い円金利の上昇は、通貨安を招き株価にもマイナス、そしてインフレにつながります。遠くない将来の最悪のシナリオに備えて、早めの対応を行っておくとよいでしょう。